ナショナリズム wikipedia|無料辞書
ナショナリズム(、民族主義、国家主義、国民主義)は、思想や運動の一種。
"nationalism"は通常、
民族主義、
国家主義、国民主義などと訳されるか、「ナショナリズム」とカタカナ表記される
[対応する訳語については、その性質上、海外研究者の研究において言及されることはまずない。E.H.カー『ナショナリズムの発展(新版)』(みすず書房、2006年)あるいはB.アンダーソン『増補 想像の共同体』(NTT出版、1997年)の「訳者あとがき」などを参照のこと]。文脈により多様に使い分けられており、その一義的な
定義は困難である。主要な論者のひとりである
アーネスト・ゲルナーは「政治的な単位と文化的あるいは民族的な単位を一致させようとする思想や運動」と定義しており
[ゲルナー、2000年、p.1]、十全とは言えないものの、この定義が議論の出発点としてある程度のコンセンサスを得ている
[姜、2001年、p.5あるいはホブズボーム、2001年、p.10など]。
◆ 概説
ナショナリズムには二つの大きな作用があり、文化が共有されると考えられる範囲まで政治的共同体の版図を拡大しようとする作用と、政治的共同体の掌握する領域内に存在する複数の文化を支配的な文化に同化しようとする作用がそれである。前者は19世紀の国民主義運動にその例を見て取ることができ、後者の例は「公定ナショナリズム」としていくつかの「
国家」において見出すことができる。
しばしばナショナリズムはパトリオティズム(
愛国心、郷土愛)と混同されるが、郷土(パトリア)への愛情であるパトリオティズムは近代になって初めて登場したナショナリズムよりもはるか以前から存在しており、両者は厳然と峻別される現象である
[橋川、1968年、p.16]。現在ではネイションがパトリオティズムの対象となる場合が多いが、これはむしろゲルナー、
スミス、
アンダーソンらが指摘するように
ゲマインシャフト的共同体が
ゲゼルシャフトであるネイションへと再編成されていったのと軌を一にして、各地域ごとに無数に存在した帰属対象としてのパトリアを、ナショナリズムが文化的同化作用によって、ネイションへと帰属対象を集約していった結果として理解される。
こういったネイションの近代性は国家主義の立場からしばしば忘れられたり無視されたりしがちであるが、ネイションとナショナリズムの近代性と作為性については、均質なネイションは近代における社会と産業の必要性から生まれたという点で学問的にはほぼ決着を見ている。ゲルナーとスミスの近代性についての師弟対決はネイションが全くの無から発明されたのか、それとも前近代から何らかの遺産を相続しているのかという点をめぐって行われたのであり、古代・中世においてネイションが存在したのかについての論争ではない。結局のところ、身分の差が歴然としており越境が困難な社会において、あらゆる社会階層を横断する共属感情を形成することは不可能ではなくともきわめて困難であり、たとえそのような感情が一部で形成されたとしても、それを後世引かれる国境線の内側すべてを覆うほどの広がりを持たせる手段を近代以前の社会は欠いていた[アンダーソンは出版資本主義を近代に特徴的な要素として挙げ、ゲルナーは国家による教育制度を指摘する。]。
しかしこのことは必ずしもゲルナーや
ボブズボームの言うようにネイションとナショナリズムが近代に無から生み出されたことを意味するわけではない。スミスは、近代以前に存在した歴史や神話を核にしてネイションは生まれたのだとする。スミスは近代以前の身分を横断しなかったり、地理的広がりを持たず、ネイションのような政治単位となりえなかった共同体を「エトニ」と呼び、あるエトニが周辺のエトニを糾合し、自らを基準に同化していった結果成立したのが「ネイション」であるとした。このスミスの理解は、いかに小規模なゲマインシャフト的集団が広範で雑多なゲゼルシャフトに変じたかという点でアンダーソンと相互に補完しあっており
[スミス、1999年およびアンダーソン、1997年参照。]、現在のナショナリズム論の基本的な考えとなっている。
◆ ナショナリズムの多義性
このように「ナショナリズム」という語が多義化する理由は、「ネイション」 (nation) という語が、各
時代・
地域においてさまざまに解釈されることを一因とする。
フランス革命後の
フランスでは「ネイション」とは近代
市民社会の普遍的諸理念を共有する個人・市民によって構成される共同体として考えられるが、一方で
ナポレオンの侵攻によって「ナショナリズム」に覚醒する
ドイツでは、「ネイション」とは固有の
言語や
歴史を共有する
民族共同体として考えられる。
さらに、ナショナリズムが高揚した19世紀においては、国家は
自由意志を持つ
個人が構成員であることを前提としていたが、20世紀前半に
大衆社会へと突入すると、
権威に盲従する
大衆も出現する中で、
ファシズム政権が彼らを妄信的に政府主義(Statism)へと駆り立てさせた。そして、ときには国家の構成員である国民一人ひとりの権利を抑圧することすらも受容されていくことになった。こうした類の政府主義は国民主義(ナショナリズム)ではない。
◆「ネイション」概念の変遷
古代ローマ帝国において用いられていた、「生まれ」を意味する
ラテン語「natio」(動詞「nascor」から派生)が、ネイションの語源となる。この「natio」という概念は、本来的には国家と結びつくものではなく、むしろローマ帝国期には「よそ者」というニュアンスで用いられた。中世ヨーロッパにおいても、この語によって想起されるのは宗教会議などに集まる同郷集団であり、やはり国家との結びつきがあったわけではない。
ネイションと国家が結びつけられるのは、ヨーロッパにおいて
主権国家体制が確立する17世紀頃だと考えられる。17世紀の
イギリス革命においては、「ネイション」の概念は
聖職者やある特定の集団のみを指し示すのではなく、幅広い人民を包含するようになった。ただし、フランスの
絶対王政のもとでは、主権者である国王に対する臣民としてネイションが理解されていた。この場合、ネイション(国民)と政府は結びついているが、あくまでも身分制社会の枠組みの中でのものであり、ネイションや政府を構成する一人一人が人権を有する対等な存在にはなっていない。1789年に勃発するフランス革命は、フランスにおける国家形成の契機となった。すなわち、
身分制度が否定され、近代市民社会の諸権利が保障される中で、基本的
人権という普遍的な権利を持つ一人ひとりが対等な形でネイション、そして政府を構成する時代へと突入した。その国家(国民とその政府)という共同体が、ある普遍的な理念に基づいて形成されるものなのか、それとも歴史・伝統に根ざした民族に基づくものなのか、それとも他の新たな観点から説明できるものなのか、これらが錯綜してナショナリズムの定義を難しくさせているのが現状である。
◆ ナショナリズムの起源
ナショナリズムの起源をめぐっては、大きく二つの見解が挙げられる。ひとつは、ナショナリズムは近代に生じた現象であり、その「起源」を近代以前にさかのぼって求めることはできないとする考え方(近代主義)である。もうひとつは、近代のナショナリズムを成立させるための「起源」が古代より継承されているとする考え方(原初主義)である。
ゲルナー、アンダーソンらは前者の代表的な学者として知られる。前者は前近代においては階級・職業・言語・地理的要因などにより「国民」は分断されており、包括的な共属感情は存在していなかったことを指摘している。それに対して後者は
ガイウス・ユリウス・カエサルに対し団結し抵抗した
ガリア人など、ナショナリズムに類似した現象が存在したと主張した。
・ナショナリズム page1
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